教育者・島木赤彦(3)
島木赤彦著『歌道小見・随見録-他一篇』岩波書店、1994年(第6刷)、26頁。
「歌を作す第一義」『歌道小見』より
自己の歌をなすは、全心の集中から出ねばなりません。これは歌を作すの第一義でありまして、この一義を過って出発したら、終生歌らしい歌を得ることは出来ません。自ら全心の集中と思うものでも、案外、一時的発作に終わるような感動があります。さような感動は、数日を経過し、十数日を経過するに及んで、心境から霧消しております。そういうものは、自己の根底所に根ざした全心の集中とは言われません。そうして見ると、歌を作す機会は、存外多くあるものではありません。心の中に軽く動いて軽く去るような感動は、それをどう現しても、要するに軽易な作品に堕ちてしまいます。